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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)3023号 判決

原告

武部悦子

被告

荒木運送株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告に対し金四、三六一、九三九円およびうち金三、九六一、九三九円に対する昭和四七年七月一四日から、うち金四〇〇、〇〇〇円に対する昭和五〇年五月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し、六、八二九、七四四円およびうち六、三二九、七四四円に対する昭和四七年七月一四日から、うち五〇〇、〇〇〇円に対する昭和五〇年五月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求原因

一  事故の発生

原告は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四六年一〇月二四日午前一一時三〇分ごろ

(二)  場所 寝屋川市太間四四六番地先道路上

(三)  加害車 貨物自動車(福岡一い四七二四号)

右運転者 訴外久保正義

(四)  被害者 原告

(五)  態様 原告が自転車に乗つて進行中、後方から追越した加害車が急に左側へ寄つたために原告と接触して転倒させ、後輪で過轢した。

二  責任原因

(一)  運行供用者責任(自賠法三条)

被告荒木運送株式会社(以下、被告会社という)は、加害車を業務用に使用し、自己のため運行の用に供していた。

(二)  代理監督者責任(民法七一五条二項)

被告会社は、小規模の個人会社であり、被告荒木は、被告会社の代表者として直接業務を統轄し、訴外久保正義を指揮監督していたものであるところ、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、側方および後方に対する注視を怠つた過失により、本件事故を発生させた。

三  損害

(一)  傷害の内容・治療経過等

原告は、本件事故により、右足挫滅創兼開放性骨折、右足右下腿皮膚剥脱、右手挫創、右肘・両下肢・顔面各擦過創、外傷性シヨツクの傷害を受け、八三日間入院し、四九回通院して治療を受けたが、右下腿欠損の後遺障害が残つた。

(二)  入院雑費 四一、五〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による八三日分。一日五〇〇円の割合としたが、これは通院交通費、入院中の子供の養育費、お手伝いさんの費用、その他の雑費を請求しないことを考慮してのことである。

(三)  仮義肢費用 二七、八〇〇円

(四)  義肢費用 一、四四七、九五〇円

義肢の価格は五六、五〇〇円で耐用年数は二年であるところ、その間に部品の修理費として、一、一〇〇円、一、二五〇円、一〇、一〇〇円合計一二、四五〇円を要し、そして原告の生存中に二一個の義肢を必要とする。したがつて、義肢費は、一個のために五六、五〇〇円と一二、四五〇円の合計六八、九五〇円の割合による二一個分合計一、四四七、九五〇円となる。

(五)  休業損害 一九八、〇〇〇円

原告は、事故当時三二才で、家庭の主婦として稼働して一か月平均四五、〇〇〇円相当の財産上の収益を挙げていたが、本件事故により、昭和四六年一〇月二四日から一三二日間休業を余儀なくされ、その間一九八、〇〇〇円の収入を失つた。

(六)  後遺障害による逸失利益四、六八四、四九四円

原告は前記後遺障害のため、その労働能力を七九パーセント喪失したものであるところ、それは少なくとも原告の就労可能年数の範囲内である一五年間は継続するものと考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算のとおり、四、六八四、四九四円となる。

45,000円×12×0.79×10.981=4,684,494円

(七)  慰藉料 三、三八〇、〇〇〇円

入院について三三二、〇〇〇円、通院について九八、〇〇〇円、後遺症について二、九五〇、〇〇〇円

(八)  弁護士費用 五〇〇、〇〇〇円

(九)  損害の填補 三、四五〇、〇〇〇円

原告は次のとおり支払を受けた。

1 自賠責保険金 三、〇五〇、〇〇〇円

2 被告会社から 四〇〇、〇〇〇円

四  結論

よつて、原告は、被告ら各自に対し、前記三(二)ないし(八)の合計一〇、二七九、七四四円から損害の填補額三、四五〇、〇〇〇円を控除した六、八二九、七四四円およびうち弁護士費用を除く六、三二九、七四四円に対する訴状送達の翌日である昭和四七年七月一四日から、弁護士費用に対する本判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一  請求原因一項の事実中、(一)ないし(四)の事実は認めるが、(五)の事実は争う。

二  請求原因二項の事実は否認する。

三  請求原因三項の事実は争う。

第四被告らの主張

一  免責

訴外久保正義は、本件事故当時歩道から一メートルの距離を保つて時速三〇キロメートルで加害車を運転して進行していたところ、原告が自転車に乗つていきなり加害車の後左側に寄せたために接触して転倒したもので、訴外久保にはなんら過失がなく、また加害車には構造上の欠陥又は機能上の障害がなかつたから、被告らに本件事故による損害を賠償すべき責任がない。

二  過失相殺

仮に、被告らの免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告にも前記のとおり重大な過失があるから、原告の損害額の算定に当つては原告の右過失を斟酌すべきである。

三  和解契約の存在

原告と被告会社との間で昭和四六年一一月九日本件事故による損害について和解が成立しているから、その和解条項の履行を求めるのであるならばともかく、それを無視して直接損害賠償を請求することはできない。

四  損害の填補

被告会社が原告に対して本件事故による損害賠償として支払つた金額は、原告の自認する金額ではなく、治療費三七一、二五〇円、付添看護費二〇二、八三〇円、仮渡金名目で四〇〇、〇〇〇円、自賠責保険金一〇〇、〇〇〇円合計一、〇七四、〇八〇円である。

第五被告らの主張に対する原告の答弁

一  被告らの免責、過失相殺、和解契約の存在の主張はいずれも争う。

二  被告ら主張の損害の填補額は認める。しかし、被告会社の支払額については、原告主張の金額の外は本訴請求外であり、自賠責保険金については、請求原因三(九)1において損害填補済である。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一項の(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、(五)の事故態様については後記三(一)において認定するとおりである。

二  責任原因

1  被告会社

〔証拠略〕によると、被告会社は、加害車を自己の営む運送業のために使用し、これを自己のため運行の用に供していたことが認められるから、自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

2  被告荒木

〔証拠略〕を総合すると、被告会社は、資本金一、〇〇〇、〇〇〇円、従業員四〇ないし五〇名、営業用トラツク一六台を有する小規模の同族会社であり、被告荒木は、被告会社の代表者であつて、被告会社の業務を直接統轄し、その被用者に対して具体的な業務の指揮、監督をしていたこと、被告会社の被用者である訴外久保正義が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、本件事故を発生させたことが認められるところ、本件事故の発生について同訴外人に過失のあることは後記三1認定のとおりである。したがつて、被告荒木は、民法七一五条第二項により、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

三  被告らの主張に対する判断

1  免責

〔証拠略〕によると、次の事業が認められる。

(1)  本件事故現場は、南北に通じる幅員六・六メートルの車道(中央線によつて二車線に区分され、東側は三・一メートル、西側は三・五メートルである。)の西側に歩道(車道との境にはコンクリートのブロツクが設けられており歩道は一段高くなつている。)があるアスフアルト舗装のなされた道路(以下、本件道路という。)上で、本件道路の東側には道路工事のため高さ約三メートルのトタン塀が設けられており、本件道路の二車線とも北行車線であつて、付近の制限速度は時速六〇キロメートルであり、車両の交通量は多く、付近は直線で前方の見通しはよく、衝突地点の南約一五メートルには丁字型交差点があつて信号機が設置されている。

(2)  訴外久保正義は、加害車を運転して本件道路の西(左)側車線を南から北へ向け時速約三〇キロメートルで同僚の運転する大型貨物自動車に約一〇メートルの車間距離で追従して進行中、衝突地点の約二四メートル手前で、前方約一三メートルの道路(車道部分)左端付近を自転車に乗つて同方向に進行している原告を認めたが、加害車の右側を進行している車両との間隔が接近していたのでそれに注意し、原告に対しては特に注意を払うこともなく進行したところ、原告の自転車を追い抜く際に加害車の左側部中央付近を原告の自転車に接触させて転倒させ、左側後輪で原告の右下肢を轢過した。

(3)  原告は、自転車に乗つて本件道路の車道の左端付近を南から北へ向け進行していたところ、加害車の左側部に自転車のハンドル右側が接触して転倒し(接触地点は歩車道の境から約九〇センチメートル)轢過された。

以上の事実が認められ、〔証拠略〕のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によると、訴外久保正義は、前方の道路左端付近を自転車に乗つて進行している原告を認めたのであるから、右自転車を追い抜くに際しては、その動静を注視し、安全な間隔を保つて進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、加害車の右側を進行している車両との間隔に注意を奪われて原告の自転車と安全な間隔を保つことなく接近して進行した過失により、本件事故を発生させたものと認めるのが相当である。

以上のとおり、本件事故の発生については加害車の運転者である訴外久保正義に過失が認められるから、その余の点につき判断するまでもなく、被告らの免責の抗弁は理由がない。

2  和解契約の存在

〔証拠略〕によると、原告と被告会社との間で被告ら主張の日時に和解契約がなされたことが認められるが、その条項によると、要するに慰藉料、後遺症等については治療の終了時点において両者で協議するというものであるから、被告らの主張は理由がない。

四  損害

(一)  傷害の内容・治療経過等

〔証拠略〕によると、原告は、事故当時三二才で、本件事故により、右足挫滅創兼開放性骨折、右足右下腿皮膚剥脱、右肘・両下腿・顔面擦過創等の傷害を受け、昭和四六年一〇月二四日から、同年一二月二九日まで、昭和四七年一月六日から同月一六日まで、同月二三日から同月二九日まで合計八五日間佐々木外科に入院し、同年一二月三〇日から昭和四七年三月一三日までの間に四回同病院に通院して治療を受けたが、左下肢膝下約二センチメートルから欠損の後遺障害が残つたことが認められる。

(二)  入院雑費 二五、五〇〇円

経験則によれば、原告の前認定八五日間の入院に伴う雑費として、一日三〇〇円の割合による右金額を要したことが認められる。なお、原告主張のうち右認定金額を超える部分については、本件事故と相当因果関係があるとは認め難い。

(三)  仮義肢費用 二七、八〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は、本件事故による傷害のため、仮義肢の費用として二七、八〇〇円を要したことが認められる。

(四)  義肢費用 八〇三、四七四円

〔証拠略〕によると、原告は、前認定後遺障害のため義肢の着用を必要とするようになつたが、義肢の価格は五六、五〇〇円で耐用年数は二年で、その間に部品の修理費として合計一二、四五〇円を要することが認められる。すると、原告は、一個のために六八、九五〇円の義肢費用を少なくとも三二才から七二才まで二年ごとに二一個分要することとなるが、その合計額は別紙計算書のとおり、八〇三、四七四円となる。

(五)  休業損害 一九八、〇〇〇円

〔証拠略〕および経験則によると、原告は、事故当時三二才で、家庭の主婦として家事労働に従事し、少なくとも原告主張の一カ月平均四五、〇〇〇円の財産上の収益を挙げていたが、前認定受傷により、昭和四六年一〇月二四日から少なくとも原告主張の一三二日間休業を余儀なくされ、その間次の計算のとおり合計一九八、〇〇〇円の収入を失つたことが認められる。

45,000円×132/30=198,000円

(六)  後遺障害による逸失利益 四、九七三、六七〇円

さきに認定した原告の従事していた職務の種類・内容およびその後遺障害の部位・程度等によれば、原告は、前認定後遺障害のため、前記収益額を基礎に考えたときその労働能力を五〇パーセント喪失し、それは、少くとも原告が六三才に達するまでの三一年間継続するものと認められるから、原告のこの逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると次の計算のとおり四、九七三、六七〇円となる。

45,000×12×0.5×18.421=4,973,670円

(七)  慰藉料 三、三八〇、〇〇〇円

前記四(一)認定の原告の傷害の部位・程度、治療の経過・期間、後遺障害の部位・程度、原告の年令、その他本件に現われた一切の事情(ただし、原告の過失の点を除く)を合せ考えると、原告の慰藉料額としては少なくとも原告主張の三、三八〇、〇〇〇円は相当であると認められる。

(八)  過失相殺

前記三1認定の事実によれば、本件事故の発生については、原告にも本件道路は大型車両の交通量が多く、その割に幅員が狭いのであるから、右側方を通過する車両の動静およびそれとの間隔に十分注意を払うべきであつたのに、これを怠つた過失が認められるところ、訴外久保正義の過失の程度、道路状況等前記三1認定の諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の二〇パーセントを減ずるのが相当であると認められる。

そうすると、被告らにおいて支払わなければならない損害額は、前記(二)ないし(七)の合計九、四〇八、四四四円に本訴請求外損害であることにつき当事者間に争いのない治療費三七一、二五〇円、付添看護費二〇二、八三〇円合計五七四、〇八〇円を加えた総計九、九八二、五二四円の八〇パーセントに相当する七、九八六、〇一九円となる。

(九)  損害の填補 四、〇二四、〇八〇円

請求原因三項(九)の事実および被告会社において前記本訴請求外損害に相当する五七四、〇八〇円の支払をしていることは当事者間に争いがない。

よつて、原告の前記(八)の損害額七、九六七、六五一円から右填補分を差引くと、残損害額は、三、九六一、九三九円となる。

(一〇)  弁護士費用 四〇〇、〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過、本訴請求額および認容額等に照らすと、原告が被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用の額は、四〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

五  結論

よつて、被告らは、各自連帯して原告に対し金四、三六一、九三九円およびうち弁護士費用を除く金三、九六一、九三九円に対する訴状送達の翌日であることが記録上明白な昭和四七年七月一四日から、弁護士費用金四〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡の翌日である昭和五〇年五月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は、右の限度で正当であるから、これを認容し、その余の請求は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新崎長政)

計算書

〈省略〉

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